自然農法の野菜作り

化学肥料と農薬に依存した農業に疑問を持ったのは自身の大病からでした。

2015年冬の日の深夜、突然の腹部深くの激痛にもがいて救急車搬送された私は、救急外来病院で胆石症を告げられました。その数か月後さらに二度も救急車搬送を受け、その夏についに胆嚢摘出術を受けました。胆石症は食事の生活習慣病がほぼ100%原因です。このままでは人工透析、そして死ぬ。そう悟った私は覚悟を決め一大決心をし、それまでの美食偏食を心から悔い改め改善へと踏み出しました。

私達の身体は100%自分が食べたものでできています。ということは、食べ物の良し悪しが健康不健康に直結するということです。野菜中心の食生活は大切ですが、野菜の品質はピンキリ。オーガニックで丹精込めて栽培された野菜と、方や農薬化学肥料でささっと育てた野菜が同じなわけがありません。食を、食材を、そして料理を私は1から勉強し始めました。そこで分かったことは、もう本物の安全な野菜は自分で作るしかないという結論だったのです。

農薬や化学肥料が無かった時代をちょっと振り返ってみましょう。その時代は、肥料と言えばせいぜい稲わらたい肥や腐葉土、人糞の下肥でした。農薬もありませんから、害虫駆除には木酢液で対処していました。そのため農業はとても人手を要し重労働を強いられたのです。

それが1950年代半ば、終戦10年後辺り。日本の農業は大転換期を迎えました。農薬と化学肥料の登場です。化学肥料は手軽な濃厚肥料で野菜がみるみるうちに成長します。しつこい細菌病や害虫が来ても強力な農薬はそれを野菜から簡単に駆逐しました。そして米や野菜の収量も格段に上がりました。農家の喜びようはそれはすごいものでした。やがてたい肥も人糞下肥も農場から消え去ります。耕運機が牛に取って代わり、日本の農村の風景は大きく変わりました。空っぽになった牛小屋には、農薬と化学肥料の袋が積み上げられるようになったのです。

このような農薬と化学肥料使用の農業を「慣行農業」と呼びます。以来慣行農業は今日までほぼ日本全土をカバーし、全国の消費者も慣行農業から生産される農作物を厚く支持しています。日本の農業に順風満帆の暁が到来したと思われました。

しかしながら、得るということは失うことでもあったのです。化学肥料が施された土は白く固く締まっています。微生物が消え去ったからです。化学肥料に依存した野菜は虫に食われやすくなります。病気にも弱くなるのです。そのためそれを農薬で守ってもらうことになります。農薬散布でますます土壌中の微生物はいなくなります。こうして長年にわたる悪循環によって、こんにちスーパーマーケット等の店舗に並ぶ野菜は栄養価に乏しく味わいも薄っぺらいものになり果てました。形も色もきれいな野菜が高値で取引されれば生産者も生活がかかっていますから、その流通の規格に沿う農業を行います。形がきれいで色が濃い野菜がもてはやされてはいても、栄養分析表にあるような野菜はすでに虚構です。味わいとなると言わんやおやです。

では有機栽培農業はいかがでしょうか。有機栽培とは有機肥料を用いた農業です。無農薬が基本ですが、日本では有機栽培農業に使用が許可されている農薬があります。このことは記憶に留めておくべきです。さらに、有機肥料について知っておくべきとても重要な事実が2点あります。

一つは、動物性たい肥という有機肥料です。牛や鶏の糞を主原料にした肥料ですが、その家畜の飼育方法に問題が潜んでいるのですね。牛や鶏の飼育段階では成長ホルモン剤や抗生物質が使用されています。早く大きく成長すればそれだけ早く出荷できるので餌代が節約できます。抗生剤は病気にかかりにくくできるのでその分利益に直結します。ではそれらの投与された薬品の影響はどうでしょうか。薬品は排泄されて糞尿に混ざっています。それを肥料にすれば当然ながら薬品混じりの有機肥料となるわけです。野菜は当然ながらこれらの薬品を根から吸収しますので、薬品の残留した野菜になってしまうというわけです。

もう一つの問題は硝酸態窒素です。化学肥料が持つ大きな問題の一つでもありますが、動物性たい肥にもこの硝酸態窒素問題が発生するのです。施肥量のコントロールが非常にむずかしい動物性たい肥は硝酸態窒素過多を引き起こします。過剰な硝酸態窒素は野菜の根や茎、葉の細胞内に残留し、やがて我々の体内にも残留します。この硝酸態窒素はアクリルアミドという発がん物質に化学変化するばかりではありません。代謝が困難な物質なので我々の内臓の、特に腎臓にダメージを与えるのです。

色が濃い野菜の方が栄養価があり美味しそう、と、消費者は判断するので販売量が当然上がります。当然、農家は色が濃い野菜を作るようになるのです。その方法は簡単。窒素肥料を撒けばいい。昨今増え続けている腎臓病の原因に、この硝酸態窒素が挙げられていることは重要ですね。

こういった経緯が自然農法へとつながっていきました。

自然農法とは農薬と化学肥料不使用は当然として、動物性たい肥すらも使わない農法です。どうしてそのようなことが可能なのでしょうか。

植物は成長する上で土中の微生物との共生が不可欠です。野菜は根から有機酸を分泌します。これは土中の微生物のごちそうです。これにおびきよせられて無数の微生物が広範囲からその野菜の根本に集まってきます。菌根菌(きんこんきん)と言います。菌根菌は野菜の根から有機酸をもらう代わりに広範囲から水分や微量栄養素を野菜に運んできます。野菜は光合成で作った糖分も菌根菌に与えます。こうして野菜と菌根菌は相互協力して共生していきます。

コンパニオンプラントという共生も野菜にはあります。トウモロコシやジャガイモに大豆を一緒に植える、トマトにはバジルを、キュウリには青シソを添えて植えるなどです。また、悪玉菌が嫌う物質を分泌するネギを野菜の苗に添えて植えるというテクニックも重要です。

野菜畑にはさまざまな雑草が生えているばかりか、昆虫などの生き物も多様に生息しています。それらの虫たちが排泄する糞がこれまた土中の微生物の栄養となり畑を豊かにしているのです。慣行農業では雑草はきれいに抜き去るべきもの、とされていますが、草が抜き去られた畑は一見手入れの行き届いた美しい畑と思われます。しかし、表土がむき出しとなったその畑はある意味では砂漠と同じで、微生物にとっても生息は厳しく荒れやすくなります。草は抜かないでおくと、土中の水分量を保持してくれるのです。

オハナ牧場は2021年初頭、自然農法の圃場を実験農場としてスタートさせました。まだ収量は微々たるものですが味わいの濃さと美味しさには唸るものがあります。試行錯誤を続けて、いつの日かこの自然農野菜を流通させたいと願っています。

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